きらきらろまん

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「なんだそりゃ。じゃあ今回もまた見送りか」 「……そうッス」  大地はため息とともにうなだれた。  ここは小さな食堂『ままや』。大地の実家の一角で祖父母が営む店である。社会人になって一人暮らしをはじめた大地だが、時折顔を出してはガッツリ食べていく。  大地が人懐っこいのは、隣近所の交流が盛んな商店街育ちの影響が強い。ざわざわと人の気配がしているだけで気持ちが浮上する。 「ばーちゃーん、ビール飲みたい」 「自分で取りな!」 「へいへい」  大地は店の冷蔵庫から瓶のビールを一本抜くと、二人分のグラスに注いだ。  あれから結局小半日ほど熟睡したのち、芳野は天体観測を楽しんで帰っていった。寸前までいったのに、念願果たせないまま見送った大地は寂しさもひとしおである。一人の部屋に戻る気になれず、昔馴染みと夕食兼の差し飲みをしている。  お相手は近所で便利屋を営む勝谷商会の長男坊だった。通学班で小学校に通っていたころからの兄貴分だ。  子供の頃に親しくしていても時とともに疎遠になるのはよくある話、それが未だに濃い付き合いをしているのは、かねてより芳野の件を勝谷に相談してきたからだった。 「俺はてっきり今日はここに連れてくるんじゃないかと思ってた」 「それは気が早いっすよ」  照れる大地に、勝谷はふふふ、と笑った。周りを明るくするような笑顔である。
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