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「あーあ、せっかくタケルさんにバッチリ教えてもらったのになぁ」
「でも進展したじゃん。お前らはもう両想いなんだから、またすぐにそういうタイミングがくるよ」
勝谷は優しい眼差しを向け、大地の背中をポンと押した。
「そうすかねえ……」
何だか無駄につまずきそうな気がして、大地はため息をついた。
それでもきっとしょうこりもなく挑むのだろう。わずかなひとときだったが腕の中の芳野は可愛かった。すこぶる可愛かった。離れたばかりなのにもう会いたい。
ビールを飲みながら視線を上げると、窓の向こうに一番星が光っている。夕暮れと夜との間で淡く、だが、確かな光を放って。
遠く離れたアパートで芳野はこの星を見ているだろうか。
素知らぬ顔で夜空を見上げながら、ひっそり大地を思い出したりするのだろうか。
夜になりきらない薄紫の空、ささやかに星は瞬く。
その輝きが両想いになりたての二人の恋のようで、大地は気泡のはじけるグラスを掲げ、星に重ねた。
< 完 >
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