はたらく猫ちゃん

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   興味はなかったが他に探すのも面倒だったので、大人しく皿洗いに従事した。夜間学部もあるので、学食は24時間営業している。賄いもくれるし、講義の後、確実に数時間稼げるのは嬉しかった。  しかし厨房の窓は大きく、パノラマのような星空が見えるのが良くなかった。星や月に目を奪われ、芳野は果てしなく食器を割った。  注意に諦めのため息が加わった頃、またしても芳野は教務課から呼び出された。  次に回された図書室の手伝いは楽しかった。裏方には貸出棚には並ばない貴重な専門書が山のようにある。芳野は手に取るたび夢中になった。  だがバイトとして来ている以上、片付けるのが本分で読んでいては仕事にならない。没頭していた芳野は一か月もしないうちに肩を叩かれ、コンピューター室の監視業務に移ってくれと言われた。  監視とはいえ、基本的には座ってじっとしているだけである。芳野に手を焼いていた担当者側が、さすがにこれならできるだろうと苦慮した結果の配属である。  だが、間の悪いことにその頃はちょうど流星群の時期だった。  日々、明け方近くまで星をみている芳野は猛烈な睡魔に襲われた。着席するや否やこくりこくりと船を漕ぎ始める。  眠り姫とあだ名をつき、瞬く間に名物になった頃、学生バイトの担当者が迎えにきた。『また君か』と深々と嘆かれた。  もはや他に引き受け手がいなかった芳野は、ついに教務課の事務を手伝う事になった。コピーをとったり、廃棄する書類をシュレッダーにかけたり、郵便物の下準備をしたりするのが主な仕事である。  しかしこれが良かった。  器用さを問わない単純作業、しかも寝ない程度に忙しい。まさに適性の勝利、芳野はこれまでの駄目っぷりを覆す如く良く働いた。  スポッとしてペタン。    今日も華麗な手さばきで郵便の発送準備をしている。その文書はオープンキャンパスのご案内で、今日中の仕事と言われている。
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