Talk to me about milk.

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「お前、バイト大変なんじゃねえか。それとも卒論、煮詰まってんのか」 「心配ない」 「でも忙しいんだろ、このメシはねえぞ」 「何がだ。至れり尽くせりじゃないか。すき焼きにおかか、ごま塩にワカメ、鮭もある」  堂々と言ってのけたが、芳野の夕飯は御飯にふりかけである。  食卓の端にストッカーがあり、各種ふりかけが几帳面に立てかけられていた。食事に労力を割きたくない芳野は、おかずを作る気がない。ふりかけの万能感をアピールせんばかりにがしがしと飯を掻っ込む。大地が不意に笑顔になった。 「慌てて食うから」 「え?」  大地は芳野の頬っぺたについたご飯粒をつまみ、そのまま自分の口に放り込んだ。一連の動きは自然で、なんの躊躇もない。家族みたいな仕草に芳野は動揺する。  食事を終えると、大地は風呂に入る。芳野ですら体育座りにならないと体がおさまらない極小のバスタブである。おそらく大地が体を沈めたらキューブになるが、鼻歌まじりで入浴し、パンツ一丁で出てくる。そして上機嫌で冷蔵庫を覗き、風呂上りは牛乳!と決まり文句を言って喉を鳴らすのだ。  まだ成長するつもりか。しかも人の家の牛乳で。  芳野は呆れつつも感心する。  未だに他人との付き合い方がわからない芳野にとって、大地の大らかさは、逆立ちしても真似できない。そもそも人の家に行くこと自体、緊張を要する芳野である。メンタル的には野宿の方がましなぐらいだ。
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