愛猫家は語る

2/4

267人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
「……というわけで、駅から観測キャンプ場まではバスが出ますが、夜までは自由に観光をしてもらいたいと思っています。そこで勝谷さんに町の案内役としてご協力頂きたいのですが、いかがでしょうか」 「あー、いいぜいいぜ。任せとけって。堅苦しいぞー、大地」 「仕事のお願いなんでそこはケジメっすから。助かります」  大地は深々と頭を下げた。勝谷とは近所馴染みで長年の付き合いだが、業務依頼であるから、律儀に名刺を添えて案内を差し出す。勝谷はさっそく協力者リストにサインをした。  大地は来年、本格的に始動する星の町プロジェクトの協力を依頼している。一件一件、趣旨を説明をしてはお願いをしていく草の根運動だ。  町の復興のためとはいえ、プロジェクトなど気にも留めていない人もいれば、無関係を決め込む人もいる。  だが、町全体が祭り気分で連携しなくてはプロジェクトは盛り上がらない。だからイベントの中心街には特に念入りに声をかけ、気持ちだけでもスタッフの一員になってもらうつもりだった。  下町商店街育ち、さらに生活課の窓口で数年間相談を受けてきた大地は、町内に顔見知りが大勢いる。そのコミュニケーション能力の高さをかわれ、プロジェクトの推進委員に選ばれていた。  勝谷商会の事務所で二人はイベントの企画書に目を通している。来年から本格化するプロジェクトだが、まだ形になっていないものも多い。 「天文台はもうオープンすんのか?」 「来春には間に合わせます。企画としてもあそこの望遠鏡とプラネタリウムは売りなんで」 「そっか。でも案内するとこそんなにねーぞ。洒落たカフェもねーし、歴史的な建物もねーし。客の飯とか風呂とかどーすんだ?」 「それなんすよね。まあキャンプが前提だからその準備はしてますけど、せっかく来てくれるんだから、この町自体が良いところだって思って欲しいんだよなあ……」  大地は頭を掻いた。寂れた過疎の町にこれといった特色などあるわけがない。名所があればとっくに栄えていたはずだ。課題は山積みである。
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

267人が本棚に入れています
本棚に追加