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よっしゃ! 書類準備よし。段取りよし。今日は外回りをさっさと終わらせてそのまま芳野んちに行くぞー!
週末が近づくにつれ、大地の気持ちは右肩上がりになる。
芳野への距離が時間とともに縮んでくるからだ。芳野には飛びついてくるような可愛げは無いが、行けば部屋には入れてくれる。
大地は学習したのである。
付き合う前のように『会えねーかな』などと奥ゆかしく打診するところから始まると、観測だの論文だのと言い訳されてどんどん先延ばしになるのだ。
だからいきなり行く。何度かこの強硬手段をとるうちに、本当に駄目なときは芳野が事前に言ってくるようになったので、余計に強気である。
前は鉄壁の壁のように思えた遠距離も、車で通ううちにずいぶん慣れた。
暗くなっていく外の風景、星と見まごうようなイルミネーション。癖のあるカーブ、途中の田園風景。途中で立ち寄るサービスエリアやコンビニも馴染みの景色になった。
負担に思ったことはない。ふわふわした気分で夜道をとばしていると、子供の頃、祭りに行ったときみたいに楽しくなってくる。
大地は行くたびに私物をちょっとづつ芳野の部屋に置いてくる。遊びにくるなと言われても荷物を取りにいくと言えば良い口実になるからだ。それに私物を置いておくのは、星しか見ていない芳野への存在感アピールでもあった。いじましい努力である。
いよいよ週末になり、大地は前夜から張り切っていた。
____しかし、人にはツイていない日というものがある。
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