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空に浮かんだ月はその白い輪郭で新月であることを告げている。
芳野は研究室を出て、バイトに先に向かっていた。とは言っても教務課は学内なので散歩にもならない距離である。
カレンダーを見なくても、月の形で芳野は時間の経過がわかる。
大地が深夜に帰った日から、二回の週末が通り過ぎていった。このところ、大地がふいに来る気がして観測にも出ていない。皮肉にも部屋にいる時間が長くなった分、論文だけは進んでいる。
教務課のロッカーに荷物を置き、芳野は何気なく携帯を確認した。
見覚えのない番号の着信がある。普通なら無視するところだが、大地のことが引っ掛かっていたので折り返してみた。ワンコールで相手が出た。
「お! 芳野?! よかった、俺だよ俺」
「誰だ貴様。俺は知らん」
これが世に言うオレオレ詐欺か。芳野は思い切り警戒してそのまま通話を切ろうした。だが、まるでそれを見ているかのように相手が絶叫で制止した。
「待―っったッ! 覚えてないのかよ、この声! トキオ、須永時生だよ!!」
「怪しいヤツ。切る」
鳴たん挿絵裏話:https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=308
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