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水魔法師ウィルの普通じゃない日
魔法使いの学園寮での一人暮らしに慣れた頃、ウィルはいつも通り目覚ましの音で目を覚ました。 寝ぼけ眼を開くこともなく、手探りで止めると大きなあくびをする。
「ふぁぁ、眠ぅ・・・。 いつも通り起きることの苦痛。 夜遅くまで新作ゲームをやっていたのがいけないよなぁ・・・」
未だにベッドの上に置かれているゲームのパッケージへ目をやった。 学園では生徒を労働力として募集していて、その初給料で買ったもの。
昨晩は心行くまで楽しんだそれが、朝の気だるさに繋がれば悪態の一つもつきたくなる。
「いや違う、俺のせいじゃない! こんな面白いゲームを作った会社が悪いんだ!」
そう言ってパッケージを鋭く指差す。 そんな一人芝居が虚しくなり溜め息をついた。
「・・・はぁ、着替えよう」
今日も休日ではないため当然学校がある。 ウィルは制服に着替えた。 その時、制服の胸ポケットから小さな手帳が転げ落ちる。
「・・・あ」
それを拾い上げた。 極力見ないように心掛けていたが、必然的に目に入ってしまうとやはり気分が沈む。 手帳には元両親が笑顔で写っている写真が貼ってあった。 現在ウィルは父との二人家族。
母と父が別れたのは、まだ物心がついていない時のため記憶になかった。 だから悲しむ理由はないのだが、友達には母親がいるという事実から何となく寂しく思うことはある。
それに加え最近父から聞かされたこともあった。 “ウィルには生き別れのキョウダイがいる”と。
―――急にそんなことを打ち明けられてもなぁ・・・。
―――キョウダイって言っても、兄なのか弟なのか姉なのか妹なのかも分からない。
―――聞いても教えてくれなかった。
―――『詳しくは知らない』と言われて誤魔化された。
―――ならどうして俺に打ち明けたんだよ?
―――気になっちまうじゃねぇか・・・。
父いわく『もう15歳になったから告げる機会だと思った』 だがそれだけだ。 ふざけるな、と思った。 告げるだけでなく詳しく話せよ、とも思った。
自分の中にない人物のことのため、何だか胸の奥がモヤモヤとするのだ。 逆に聞きたくなかったんじゃないか、と。 それなら深く知る必要もないんじゃないか、と。 着替えていると父から通信がきた。 映像と音声の同時送受信モードにして出る。
『おはよう、ウィル』
「父さんおはよ。 今日も元気か?」
『あぁ。 毎日元気な姿が見れて嬉しいよ』
寮に入ってから半年、父は毎朝連絡をくれる。 それ程大切にされているということなのだろう。
「こっちこそ。 父さんが毎日連絡をくれるから寝坊せずに済んでる」
『当たり前だろう。 たった二人の家族なんだから』
その言葉に引っかかった。 父はウィルのキョウダイを家族として計算していない。
「・・・なぁ、父さん。 俺の生き別れのキョウダイのこと、本当に父さんは――――」
―ドーン。
話している途中大きな音が響き、学園が揺れた。 何らかの魔法実験の失敗だろうか。 そのようなことを考えたが明らかに方向と距離がおかしい。 魔法実験室は寮からはまるで離れた本棟にしかないのだ。
『どうした!? ウィル、大丈夫か!?』
慌ててドアを開け廊下を見渡す。 既に複数の生徒が廊下へ出て慌てていた。 するとアナウンスが聞こえてくる。
“305号室で火災が起こりました。 水属性の生徒は至急、305号室へ集まってください”
「ごめん父さん、俺行ってくる!」
ウィルは幸か不幸か水属性の系統の能力者だ。 放送を聞いて305号室へと駆けていく。 近付くにつれ白煙と焦げ臭い匂いが鼻をくすぐる。
ちなみにであるが、生徒は授業以外で魔法を使うことは禁止されていた。 だが緊急時は別で、火事がよく起こりはしないが生徒の力を学園が必要とすることはよくあることだ。
「はいはい! 俺水属性です!」
「貴方も力を貸して! お願い!」
火属性の先生に言われ、魔法を使って水を消し始めた。 既に三名程の水属性の生徒が到着していたようで、彼らに交じり魔法に集中する。 勢いよく放出された水のうねりが燃え盛る炎を鎮火していく。
魔法を使いながら、横目でドアの前でしゃがみ込んでいる一人の女生徒が見えていた。
―――あの子どこかで見たことがあるな。
―――確か土属性だったような・・・?
属性が違えばクラスも授業も違うため関わることはほとんどない。 それにいつも一人でいて内気なイメージの少女だった。 周りの声から彼女の名がルーシィであるということが分かった。
―――噂で聞いたけど、あの子は両親がいないんだっけ。
―――俺より可哀想だよな・・・。
協力して何とか火を消し終えた。 先生たちは集まって何か話し合っているが、混乱している様子だ。
「寮で魔法を使うことは大人でも禁止です! 一体誰がこんなことをしたんですか!?」
「そもそもこの寮は火の扱いが禁止だ。 火にまつわるものは持ち込んではならない。 本当に一体誰が・・・」
ウィルは先生たちの会話を聞いていた。
―――火にまつわるものは寮に持ち込んではならない。
―――ということは、火属性の人が使ったということか?
火属性の生徒なんてたくさんいるため見当もつかなかった。 事件は“通り魔放火事件“として片付けられた。 部屋の持ち主が火属性ではなく、事故の類ではないと判断されたためだ。
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