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ウィルは改めて寮で朝食を済ませ本棟へと向かった。 今日は朝の一件から少々時間を圧迫したが、ギリギリ遅刻はせずに済んだ。
もちろん先生方も事情は知っているため、遅刻しても問題にはならなかっただろう。 だがウィルとしたら間に合うのに遅らせる理由はなかったということだ。 いつもの友達が教室に既に集まっている。
もちろん皆は水属性の能力者である。
「ウィル、聞いたぞー。 お前の寮で放火事件があったんだって?」
当たり前だが、今朝のことは噂になっているようだ。
「そうなんだよー。 怖くて夜しか寝れる気がしねぇ」
「ウィル、俺も聞いたぞー。 水属性の人が至急集められて、活躍したんだろ?」
「そうなんだよ! これで俺も有名人の一員だ!」
「いいなー! 俺もウィルと同じ寮に入ればよかった。 そしたら愛しのキャリーに格好付けられるのにー!」
ちょっとした小ボケを入れてスルーされるというのはウィルの日常の一コマだ。 今朝のことを思い出せば冗談なんて言っている場合ではないのだが、いつも通りに接するのがいいと思っている。
ちなみにキャリーというのは友人であるウィスパーの好きな相手だ。 属性が違うためなかなか活躍場面を見せることができなく、その恋が実りそうな気配はない。
「お前の愛しのキャリーは火属性だぞ? 一応今回の事件の容疑者の一員だ」
「そうだけど、キャリーがそんなことをするはずがない!」
二人のやり取りを聞きながら支度をする。 一限から実技授業だが、今日は朝のことで身体が既に温まっていた。
―――火属性のみんなが容疑者、か・・・。
―――まぁ、そうだよな。
―――それにしても犯人は、最初からルーシィの部屋を狙って火を放ったのか?
―――それとも偶然か?
「おーい、ウィルー! 授業に遅れるぞー」
考えているといつの間にか友人たちは廊下へと出ていた。
「あ、今行く!」
ウィルも彼らの後を追いかけた。 早速授業の開始。 最初の授業は魔法を使う時のコントロールを学ぶ。
「そこに三つの的が並んでいるわよね? それを手前から一つずつ水を放って倒していって。 ちゃんと加減をコントロールしないと倒れないようになっているからね。 三つまとめて倒すのは禁止よ」
生徒が次々と実践していきウィルの番が来る。 先生と一対一で見てもらっていた。
「では次、ウィル」
「はい!」
ウィルの成績は中の上だ。 本当は目立つのが好きで目立ちたいのだが、成績が平凡過ぎて望みが叶わない。 それを悩んで励んでいるが、まだ実ってはいない。
今朝のことで耳目を集めることはできたが、魔法を使って活躍、といったことは割と日常茶飯事なことのためすぐに忘れ去られることだろう。 ウィルは片手を的に向ける。
水属性は生まれつきその体質で“水、出ろ”と念じるだけで容易く放てる。 放出量を減らし、一つ目の的に水を当てた。
―――くッ、的が倒れない・・・!
―――もう少しだけ、強めに水を・・・。
水を出すのは簡単だが、それを完全にコントロールするのは難しい。 火を消すならあまり考えずに放出すればいいが、こうして実技としてやる時は神経の使い方が違う。
少しずつ調整していたつもりだったが、気が緩んで思い切り水を出してしまった。 この勢いでは三つの的を同時に倒してしまい失敗となってしまう。
―――マズいッ!
―――水、止まれ・・・ッ!
―バッ。
焦ったのも束の間、放出していた水が一瞬にして消えていた。
「・・・は?」
先生はもちろん周りにいる生徒も唖然としている。 水が一瞬で消えるなんてことは普通有り得ない。 水を使う魔法を止める時は、通常徐々に水が消えていく。 それが常識のはずだった。
「ウィル、今のは何?」
「え、いや、俺にもサッパリ・・・」
先生は疑いの眼を向けてくる。 ただウィルとしても心当たりは全くなく、授業の実技として失敗だったため内心では落ち込んでいる。
「俺は何もインチキはしていませんって!」
「・・・まぁ、いいわ。 続けてちょうだい」
―――一体何だったんだろう・・・。
この後は特に事故もなく自分の番を終えることができた。 やはり成績で言えば中の上といった具合で最も目立たないポジションだ。 順番を他の生徒に回すと友達がやってくる。
「ウィル、見たぞ! 何だあれ? バッと水が消えるヤツ!」
「さ、さぁ? 俺にもよく分からない」
「普通はあんなこと起きないよな? 初めて見たんだけど」
「だから俺も初めてで」
「もしかして、強く“水よ止まれ!”って念じたら一瞬で消えたりとか!?」
「・・・あ、確かにそれはあるかも」
「マジか! その技使えるじゃん! 俺の番が来たら使ってみよー」
だが友達が使おうとしてもその技は出なかった。 その後も特に異変はなかったためアレは特に気にしないことにした。
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