【Tour1】スパイな彼氏

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【Tour1】スパイな彼氏

半日かけて複数の観光名所をバスで巡る。豪華昼食付きで一万円以内というコスパの良さ。何より、自分達で運転しないため、道中に飲酒可能という魅力を備える最強レジャー、それが〈観光バスツアー〉である。 高校時代の塾の同級生、里沙、葵、玲奈の三人は毎シーズン、このバスツアーを利用している。30歳手前の彼女達は約三ヶ月に一度、飲みに行く代わりにここで近況報告をし合っている。 「ハァ、、いやー、二人とも今朝は遅れてごめんね。まだちょっと呼吸が整わないわ、、ハァ。朝一からいい運動したわー」 「里沙の遅刻、これで何回目よ」 「まあまあ葵ちゃん。いいじゃん、間に合ったんだし」 「もう! 玲奈様、里沙に甘くない? まぁ別に怒ってはないけどさ」 里沙が遅刻し、葵が注意し、玲奈が仲裁する。この一連のやり取りも何回繰り返されたことか。このやりとりを経て、ようやく彼女達の女子会が始まるのだ。 「それでは本日も飲んで喋って楽しみますか!」 「だね! ではまず、玲奈様から近況どうぞ!」 「え、急っ! 私から? 近況ね。うん、私彼氏ができた」 「え!? 嘘、おめでとう!!」 「え! これは祝杯待ったなし!」 玲奈様に彼氏ができたのはいつぶりだろう。二人が記憶している限りでは、社会人になってから初めての彼氏のような気がする。 「出会いは? 年下? 年上? スペックは?」 里沙は次々と質問を投げかける。 「質問多いな。えっと……出会いはマッチングサイトで、二ヶ月前から付き合ってる。年上で、他は不詳。私は諜報部員ではないのかと睨んでいる」 「……ん!?」 「え!?」 里沙、葵の二人は言葉を失う。彼氏ができた事にも驚いたが、不詳とは? 諜報部員とは? もしやこの瞬間が今日一番の撮れ高ではないだろうか。葵は近況報告の順番を誤ったなと感じつつも質問を掘り下げた。
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