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〇ガク
「はー…いい湯。」
毎年恒例。
二階堂主催の、温泉一泊二日の旅。
まあ…旅とは言っても近場。
毎年来てるけど、今年は沙都がいないせいで…俺としては物寂しい。
今年のラインナップは、二階堂本家の三兄弟と、空ちゃんの旦那さんのわっちゃん、桐生院の聖くん、紅美、そして俺。
あ、海くんの許嫁の朝子ちゃんもいる。
…許嫁か。
俺にも、そういう存在がいれば良かったのになー。
そしたら、その時が来たら結婚。って。
「……」
露天の湯煙の向こうに夕暮れを見ながら、一人で考える。
なんて言うか…
この、近場での入り乱れた人間関係を垣間見た気がした。
聖くんが…泉ちゃんに迫ってた。ように見えた。
でも、結局はケンカ…?ぽくなって。
その後、うなだれた聖くんに、海くんが話しかけて…
何やら、真剣な顔で話し合ってた。
一人で部屋にいた俺は、しばらくそれを眺めてたけど…
暇だったから、寝た。
で。
起きたら…顔に落書きされてた。
どれだけ熟睡してたんだよ俺…
空ちゃんは新婚で、わっちゃん(沙都の叔父さん)と二人で温泉街に消えて行ったし。
紅美も何度目かの湯に浸かるって言ってたし。
朝子ちゃんは、ロビーで一人でいるのを見かけた。
…海くん。
聖くんなんて構ってないで…許嫁の朝子ちゃんと、もっと一緒にいてやればいいのに…
近場での入り乱れた人間関係…か。
確かになー…
うちの親父のバンドは仲が良くて、許嫁制度?を導入して親戚になろうとしてたりもする。
実際、コノと仲のいい佳苗は、音の兄貴である彰くんと許嫁だし。
昔の話。で終わるかと思ってたが、何となく…上手くいくんじゃないかって気がする。
…コノには、そういうのいないのかな。
「一人か?」
声がして顔だけ振り返ると、海くんがいた。
「あれ?聖くんは?」
「ちょっと晩飯までブラブラして来るってさ。」
「ふーん…」
かけ湯をして、隣に入って来た海くんに言う。
「朝子ちゃん、ほっといていいの?」
「泉とどこか出掛けてたぞ?」
「あ…そうなんだ。」
あー、いい湯だ。とか何とか言って。
海くんが空を仰いだ。
「…あのさ。」
「ん?」
「小さい頃から許嫁って言われてて、他に好きな子できなかったの?」
素朴な疑問。
まあ…二階堂は特殊な世界だから…
もしかしたら、そう言われると、そうでしかないのかもしれないけど。
「まさか。好きな子なんて、何人もできたさ。」
俺の想いとは裏腹に、海くんは笑顔でそう言った。
「はっ…そうなんだ…今の、聞いて良かったのかな。」
「ははっ。関係ないよ。」
「…今は?好きな子いないの?」
「…本気で好きになったのは、一人だけかな。」
「へえ…それって朝子ちゃん?」
「………おまえはどうなんだよ。」
「えっ。なんで俺に話振る?」
「次から次へと女作って困るって、陸兄がボヤいてたぞ?母さんに言わせたら、『親子ソックリ』らしいけど。」
つい、湯の中に顔を沈めた。
親父がナンパ男だったのは…有名だ。
だが、俺までそうとは思われたくなかったのに。
「…今、好きな子がいるだろ。」
「えっ!?なんで…?」
ザバッと湯から顔を出して言うと。
「瞳孔が開いた。」
「………マジかよ…ずるいな…二階堂め…」
「おまえも二階堂だろ?どんな子だ?」
「…とにかく…可愛い…」
「ほお…で?告白は?」
「し…してねーよ…」
「学をここまでウブにさせる女の子か…見てみたいな。」
「……」
照れた。
そんな俺を見て、海くんはクスクス笑いながら。
「瞳孔が開いたなんて、嘘だよ。」
そう言って、俺の頭をポンポンと叩いた。
…二階堂ーーー!!
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