クロース・トゥ・ユー

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 今日、久しぶりに雨が降った。  今月に入ってからずーっと晴れで、十日間連続で乾燥注意報が出てたぐらいカラッカラの天気が続いてたのに。朝からずーっと雨。  先月アパートに姉貴が来た時、悪かったな。美味いコーヒーを淹れてくれたおまえに「ありがとう」も言わないで、 「ねぇ、天気図読むのが好きって、アナタ相当変わってない? 将来気象予報士とか目指してんの? まぁさ、部屋の間取り図見てるうちに気づいたら日が暮れてたって平気で言うウチの弟もどうかと思う部類の人間だけど。男が好きとかは別にどうでもいいのよ。好みなんて人それぞれだから。けどさ、どこがいいわけ? お互いに」  ってまくし立てやがって。ほっとけよ。家の間取りってものには、計り知れないロマンが敷き詰められてるんだ。設計した人、それを建てる人。そこで暮らそうとする人がいて、周りの環境なんかも……って、こんなんだから「どうかと思う」とか言われるんだな。ま、おまえの「天気図が好き」っていうのはおれも全く意味わからんけども。  けど、姉貴の言うことなんか気にするな。してないと思うけど。アレ、絶対にやっかみだぜ。後から聞いたけど、自分はフラれたばっかだったらしい。  それにな、おれは価値観が合う人じゃなきゃいやだとか思ったことないから。むしろ逆の方が、すぐそこに自分の知らない世界が広がってるわけでさ、それをチラ見できるのかって考えたらめちゃくちゃ面白くね? わくわくすっぞ。そういう人間だから。  昨夜寝る前に、つけてたラジオを消そうとしたら「Close to you」が流れてきて、止めようと思ったけどそのまま聴いた。カーペンターズなんて聴くのすげー久しぶり。カレンの声って、コンパスできっちりクルッって書いた円みたいに欠けたところがないっつうか、ほぼ完璧じゃね?ってぐらいイイ声だな。で、この曲ってなんか雨音を感じるんだよ。なぜか。雨のことなんて全っ然歌ってないのに。あのタンッタン、トゥ、タンッタンってイントロのピアノの音が雨音みたいに聴こえるのかな。  なぁ、なんであの曲の邦題は『遥かなる影』なの? クロース・トゥ・ユーって、「あなたの近くに」みたいな意味だよな。……そんなこと考えながら寝て、今朝起きたら雨が降ってたんだよ。頼むよおれの気象予報士。昨日洗濯物取り込むの忘れてたわ。  こっちに帰ってくるのは来週、試験前だな。レポートも手伝ってやるから、実家のこととか親父さんの具合は戻ってから教えてくれたらいい。  月も星も、天使も小鳥も、みんなあなたのそばにいたいのよって昨夜カレンが歌ってた。さすがに一週間もこの部屋におまえが居ないと、おれもそんな気になってくる。just like me close to you……なんて面と向かっては絶対に言わないけどな。
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