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「綺羅さん!」
軽快な足音が近づいてきたと思ったら、三角君が背後から抱きついてきた。大の男が大型犬みたいにじゃれつく姿を、通行人にギョッとした目で見られる。
「ちょ、やめて! 恥ずかしい!」
「綺羅さんの背中、ちっちゃくてかわいい」
私の体をすっぽり腕の中に包み込んだ三角君が、耳元で囁く。
初対面から人懐っこい子だったけれど、つき合ってからは人前でも構わずべたべたしてくるようになった。いつもにこにこと朗らかな彼が、他の人たちといる時は割と真顔だと知って胸が熱くなった時にはもう、私はこの子が好きだったんだと思う。
「やだ……みんな見てる」
そう言ってうつむくと、三角君は私の耳朶に少しだけ唇をつけた。
「みんなが見てないところでなら、いいんですね?」
熱い息が耳にかかる。
「綺羅さん、ちゃんと来てくれてよかった……」
囁かれた甘い言葉に答えず、私は往来で自分を抱く腕をそっとほどいて彼を見上げた。
「私ひとりでチェックインするから、三角君は後で部屋上がって来てね」
「なんでですか?」
「なんでって……恥ずかしいでしょ、ふたり並んでチェックインとか」
「はぁ」
「ロビーで待ってて」
三角君はふて腐れた顔でしぶしぶ了解し、エントランスに向かう私の背中を見送った。
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