花火と私とトライアングル

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 フロントで(キー)を受け取り、エレベーターを待つ。ポーンという音と共に、ボタンの三角形が発光した。  半年前までの私なら、目に入った途端に神経を尖らせただろう。  三角は殺しの符号。私の脳には、そう刷り込まれてしまっていたから。  物心つく前から、私は殺し屋の娘だった。初めて母の手伝いをしたのがいつだったかなんて、覚えてもいない。手伝いはいつからか手ほどきになり、私は母に殺しの技術を叩き込まれた。骨の位置や筋肉の付き方。女の力で確実に命を奪う刺し方と、返り血を浴びにくいナイフを抜く角度とタイミング。  単独で仕事を任されたのは13歳の時。以来8年間、私は名前と外見の特徴しか知らない標的(ターゲット)を闇に葬り続けた。  新宿駅の掲示板にXYZ。NYタイムスにG13型トラクター売りたし。それらの真似をしたのか、母が殺人依頼に使っていた符号は、白抜き三角と黒塗り三角の組み合わせだ。  ネットや新聞で毎日その有無をチェックするのが、小学生の頃から私の仕事だった。そのせいで、いつのまにか私は街中に溢れる三角形にまで過剰反応するようになってしまった。  それなのに。  今は三角形を見ると、私の脳内にはあの子の笑顔ばかりが浮かぶようになってしまった。眩しい太陽みたいな、オレンジや黄色のキラキラした三角。  潮時なんだ、自然にそう思った。  足を洗えば罪も消えるなんて、都合よく考えていたわけじゃない。でも、私を明るい場所にぐいぐい引っ張っていくあの子に、もしかして……って、期待してしまった。
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