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部屋のドアを開けると、正面に真昼の空を切り取る大きめの窓がある。眼下には、美しい釣り橋とゆっくり回る観覧車。そこに今夜、1時間に渡って花火が上がる。景観は最高。花火が始まれば、外から部屋の中を覗き見る人などいないだろう。
明るいうちにコトに及ぶ可能性を考えて、私は窓辺に寄ってカーテンを閉めた。
さっき抱きしめられた時、三角君のボディバッグが体に当たったのを思い出す。中に何か、硬く長細い物の感触があった。バッグの容量からして、刃渡りはたぶん12センチ程度。
スマホからルームナンバーを送信し、その後私は三角君のIDを消去した。電話番号、メールアドレス、履歴を全て消したタイミングで、ノックの音が響く。
早いなと思いながらドアを開けると、彼は緊張で口の端を痙攣させ、荒い息を吐いて立っていた。
「少し遅いから……心配しました」
「この期に及んで、逃げたりしないわよ」
私の答えに安堵の笑みを浮かべ、部屋に足を踏み入れた三角君が後ろ手に鍵を閉めた。その金属音の余韻の中、私はゆっくりと踵を返す。
あのね、三角君。
父親の仇を討つなら、私がしたのと同じように、背中を刺して。
花火なんか見れなくてもいい。でも、最期に見るのが君の殺気立った顔ってのだけは、勘弁してほしいんだ。
私はそう願いながら、恋人に背を向けた。
すべてを受け入れるよ。それ以外、贖罪の方法もなくてごめん。
背後から手が伸びる気配を感じる。
私は息を吐き、最後に彼の笑顔を焼き付けた目を、ゆっくりと閉じた。
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