花火と私とトライアングル

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 うつむいた私の手を引いて窓辺の椅子に座らせ、三角君はその向かいに跪いた。 「あのね、俺、綺羅さんのこと恨んだりしてないですよ?」  その言葉を、字義どおりに受け止めることなどできない。罪もない父親を殺した女を、誰が恨まずにいられるだろう。何も言えずにいると、彼は微笑んだままの唇から意外な真実を告げた。 「依頼したのは、親父本人だったんですから」  驚いて顔を上げた私に、彼は続けた。 「当時俺はまだ子どもだったから詳しいことは知らないんですけど、親父の会社、ダメになって。漫画みたいな借金取りが学校にも来てたのは憶えてます。あのタイミングで殺してもらわなかったら、保険金の受取人書き替えさせられたり、ホントやばいとこだったらしいです」  そう言われ、私の脳裏にあの日の光景が蘇った。  明け方でも蒸し暑い真夏の河川敷。ゆっくりと歩くシャツ一枚の痩せた背中は、あっけないくらい刺しやすかった。抵抗するそぶりもなく倒れた彼は、自分が刺されることを知っていたのだ。  母が私の初仕事にその依頼を選んだのももちろん、容易な案件と分かっていたからだろう。 「だから俺、綺羅さんには感謝してるんです。分かってもらえました?」  うなずくのはおこがましいだろう。三角君がそう言ってくれても、私の罪が消えたわけじゃない。彼の父親以外にも、私は両手の指では足りない数の人命を奪ってきたのだから。
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