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「ただの炭酸水だけど、誤解が解けたお祝いに乾杯しましょう。話したら喉渇いた」
グラスに注がれる泡の立つ透明な液体を見ていたら、なんだか私も喉の渇きを感じた。
「乾杯」
促されるまま、彼とグラスを合わせる。三角君の目は、優しく細められていた。
少し甘味のある炭酸水が、喉から食道を冷やしながら胃に落ちる。二口飲み込んでから、私は自分の異変に気づいた。
「あ……っ?」
胃が焼ける熱と、肺の圧迫感。
ハッとして顔を上げた私に、彼は変わらず穏やかに微笑んでいる。身体中の血管が脈打つたびに膨張するような痛みにきつく閉じた眼裏で、明るい色の三角形がいくつも浮かび、互いにぶつかり合って花火のように弾けた。
情報でしか知らない、もちろん飲んだこともない。でもこれはきっと、最近闇市場で流行りの毒薬、「FUEGO」だ。
目眩と激痛で立っていられなくなった私は、敷き詰められた絨毯に膝をつき、彼の足元に倒れた。
「花火、見れました?」
顔を見なくても微笑んでいると分かる声音で、三角君が囁く。気道が腫れ、もう返事もできない私の鼓膜を、あくまで優しい彼の声が揺らした。
「おやすみ、綺羅さん」
【了】
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