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(とうとうこの日が来たな……)
シティホテルの前で、私はその縦長のフォルムを見上げた。壁面に並ぶ、同じ形の窓。そのうちの一つから今夜、私と三角君はふたりで花火を見ることになっている。もっとも、そんな余裕があれば、の話だけど。
「花火大会の日、ホテルとって一緒に見ませんか?」
彼にそう誘われたのは、つき合って半年経った先日のこと。いつもの強引さはどうしたのと思うほど、おどおどした様子に苦笑した。初めて会った日から、歳下だってことも全く気にしていない態度で猛烈にアプローチしてきたくせに。
「花火の見える部屋なんて、今から予約取れると思ってるの?」
私の苦言に、三角君はそんな激戦を全く想定していなかったという顔をした。モテそうな見た目をしているのに、その経験値の低さはなんだろう。
「そういうものなんですか?」
「まぁ、探せば空きもあるかもしれないけど……」
しゅんと下がった尻尾が見えた気がして、私は奥の手を提示した。
「じゃあ、私がとっとく……母のコネでたぶん、なんとかなるわ」
「それって……そういう意味含めてオッケーってことですよね?!」
顔を上げた彼は、期待と興奮に満ちた笑顔で私を抱きしめた。
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