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「…はぁ…」
吐息が漏れる。慣れている感は皆無なのに、あまりにも堂々としている。逆にイーヴルが照れてしまいそうな空気でしかない。
「…ねぇ黒曜さん」
「ん…なに…」
途切れ途切れとなる会話。
「黒曜さんは…いや、聞くべきじゃないよね」
「…しりたいん…だろ?…きけばいい。…きかないなら…ぼくがじぶんで…いう」
工具を持ち続けた結果、少しだけ鍛えられた黒曜の腕がイーヴルを捕らえる。引き寄せ、イーヴルにそっと囁いた。
「──」
想定内の言葉だが、その言い方にらしさを感じる。
「イーヴルがよこせって、いったんだ。…ちゃんと…もらいうけろ」
焚き付け煽るその物言いに、遠慮は止める事にした。
「…上等だ」
もともと欲しかったのだから、手離さない様に繋ぎ留めたい。どんなであれ女の子だからと気遣うつもりでいたが、黒曜にとってそれは不要。そう扱われる事の方が嫌だろう。とは言え、お互いが不快になるのはなしだ。どうせならそれぞれが気持ち良く果てたい。
イーヴルは自分のコインパースから避妊具をひとつ取り出した。近い内にこうなると確信した時に準備した物だ。黒曜が大事だからこそ、ちゃんとしたかった。お互いを守りたかった。
黒地に彼を思わすオレンジのラインが入ったコインパース。家族が彼に贈った品だった。そんな品にだからこそ、彼は他人も自分も守る物を入れていた。誰かに見せる訳ではないし、見せる必要もない。コインを入れないから汚れる事もない。
ピリっ…とプラスチックパッケージを開封し、自身に膜を張る。お互いを守る膜だ。嫌だとか、そう言う感情は皆無だった。
「黒曜さん…──」
敬愛と情愛が混じりあった言葉と共に、彼は関係を更に一歩詰めた。
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