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──何だか暑い…。
もう肌寒くて掛け布団が心地良い時期だと言うのに、その日は何故か暑く感じた。汗をかく程ではない。だが布団の中が明らかにいつもより暑い。
──身体が重い。
そして重たい。上手く身体が動かせない。
半俯せの状態で布団に潜り込んでいた黒曜は、頬に当たるタオルの感触に少しずつ覚醒して行く。ざらりとしたその感覚が、黒曜の意識を夢から現へと呼び寄せる。
「…んー…」
もぞり、と動こうとするが上手く動けない。手足は動くが身体本体が上手く動かせない。何かが黒曜の背中に乗せられている様だ。身体が重たいのは体調不良ではなく、物理的に重たいと言う事がわかった。
「…イーヴル…?」
自分のすぐ隣で同僚が静かな寝息を立てて眠っていた。彼の腕が黒曜の背中に乗っかっている。なまじっけ黒曜よりもしっかりとした男の腕だ。普段からライフルの様な重たい物を担ぎ、それを扱う腕だ。しっかりとしていて、それが重たくない訳がない。
身をよじり、何とかイーヴルの腕をそっと下ろし状況を確認する。
「…あぁー…」
この時点で自分が何も身に付けていない事に気付いた。そしてイーヴルも何も身に付けていない。状況として考えられる事柄はひとつだけだった。
ベッドサイドに置かれた小さなテーブルの上には、ファスナーが開放されたままのコインパースと、破かれたプラスチックパッケージが放置されている。
自分では角度的に確認は出来ないが、お世辞にも強固とは言えない自分の胸部装甲には幾つもの紅い痕跡が付けられているのだろう。それらは集中して鼓動を告げる箇所に。
思い出してしまい思わず紅潮する。頭を抱える。イーヴルを殴りたい衝動に駆られるがそれは我慢した。代わりに彼の特徴とも言える鮮やかな色の髪に触れる。自分とはまた違う、柔らかいその触感が良い。
嫌ではない。それは間違いのない感情だ。
煽ったのは自分。そして煽られたのも自分。言われた言葉が嬉しかったのも自分。温かさが心地よかったのも、自分。
イーヴルが関係を詰めた。今度は黒曜から詰める番だ。
──とりあえず風呂にお湯を張るか…。イーヴルが起きたら洗濯と、郊外のショッピングモールへ。確かそんな話をした気がする。
床に散らばった衣類の中から、差し当たり洗濯しても問題ない物を選んで拾い集める。
何も身に付けないまま、まずは風呂の準備とタオルを取りにその場を離れた。
イーヴルを起こすのはそのあとだ。
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2021/01/26/規格外001
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