◆規格外002/語るオレンジ、黙る漆黒

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イーヴルが住むマンションにはオートロックがない。その分、周辺の同条件の物件に比べ、家賃が少し安かった。男の独り暮らしだし何より彼も軍人だ。何かあっても対処出来るだろうと、少しでも安い物件を選んだ。 部屋も中途半端な階層の奥から2番目。 玄関に取り付けられたシリンダー錠に、ありがちなキーを挿す。上下2つなので、黒曜を背負ったままだと少し大変だ。 「開けるぞ」 錠が開いたドアをアイゼンが開けていてくれる。もぞもぞと靴を脱ぐと手探りで照明のスイッチを入れた。明るくなった自宅を進み、イーヴルが自分のベッドに黒曜を下ろした。着せていた上着を脱がせ、衣類を緩める。随分と手馴れていた。 預かっていた黒曜の眼鏡とヘアピンは纏めてヘッドボードに置く。肌掛け布団をそっと掛けると、その場を離れアイゼンの元へ行く。 「その辺に座ってなよ。氷とグラスを持って来る」 アイゼンがローテーブルの前に座り込む。足元には雑誌が数冊。見るからにアイゼンとは縁がなさそうな専門雑誌だった。 「はいよ」 ことり、とテーブルにグラスが置かれた。それを見て、アイゼンが買って来た酒缶を広げる。 「こっちのは黒曜が起きたらくれてやれ」 1本だけ入っていたペットボトルはイオン飲料。酔って寝てしまった黒曜の為の1本だ。それは冷蔵庫に仕舞った。 それぞれ1本ずつ缶を手に取ると、グラスに注ぎ口を付ける。居酒屋での酒も良いが、こう言う飲み方も彼等は好きだ。 「で、イーヴル。何を話したい?」 「何でも構わない。くだらない話でも、とにかくアイゼンと話してみたいんだ」 「…そう言われてもなぁ…」 困ったようにアイゼンはイーヴルの部屋を見回す。何かきっかけはないものだろうか。 「そう言えば、随分手馴れていたな」 「何が?」 「黒曜の扱い。俺が離脱するまではこんなじゃなかったよな?」 さっき見て思った事をつい、口にしてしまった。 ──────────────────
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