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北方管轄区の秋は短い。暑さが引いたかと思えば一気に寒くなる。冬の北方管轄区の厄介さは1度体験しただけで痛く理解した。
駐屯地近くの自宅からイーヴルが運転するバイクに乗せられ、どこかへと連れられて行く。駐屯地からすこし先の地方都市を抜け、景色は段々と都市部から離れていく。建物は減り始め、気が付けば左右に揺れる緩やかな山道へと変わって行った。感じる風から思いの外、空気が冷たいとわかる。車だとわからない、バイクだからこそわかる空気と言う事か。
ベージュとグレーの建物から緑の木々が増える。
「なぁイーヴル、どこへ行くんだ?」
「もう少し」
その会話のあとも何度かカーブを抜ける。そのうち突然視界が開けた。
イーヴルはバイクを左に寄せると、道路から外れた場所に停めた。そこは路肩でも単なる退避ポイントでもない。路面には白いラインが引かれ駐車スペースが確保されているし、歩くための歩道も休憩の為のベンチも設置されていた。
イーヴルは端っこにバイクを停めると、僕の手を取り舗装された地面へと降ろしてくれる。
「こっち」
タンクに貼り付けられたバッグを引き剥がすと、イーヴルはどんどん目の前の階段を下りて行った。
イーヴルが僕に何を見せたかったのか。それは階段を下りなくても良くわかる。全体を見るのならば、ここから見れば良い。
眼下に広がるその景色は鮮やかとしか言えないくらい、綺麗なものだった。緑の中に黄色、橙色、赤色。自然が織り成すカラーキャンバスに思わず感嘆の息を洩らした。
西方にいた時は、気持ちの余裕などなかった。
中央にいた時は、時間の余裕などなかった。
北方に来て、漸くあらゆる余裕が持てたような気がする。
「凄いだろ、ここ」
「…あぁ、綺麗すぎる…」
「ここの景色、今しか見られないんだ」
「?」
「ここは北方だろ?秋がとても短い。もう少ししたら山道は路面凍結で入れなくなるし雪も降る。何より北方の紅葉時期はほんの僅かなんだ」
付いて来ない僕を心配してか、イーヴルが僕の傍へと戻って来てくれた。少しの距離を置き、僕が来るのを待っている。急いでイーヴルの後ろに付くと、彼の歩く道を付いて行った。
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