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彩り鮮やかな木々に囲まれた遊歩道を進み、小さな東屋を見付けるとそこで休憩をする事にした。
小さな東屋に似合う小さなテーブル、それにイーヴルがバッグを乗せるとファスナーを開けて中身を出す。大して大きくないバッグには2人の貴重品とステンレスボトル、それとファスナー付きの袋に入れられた耐熱プラスチックのコップが2つ。ステンレスボトルの中身はここへ来る途中、カフェで淹れて貰った温かいソイラテだ。
ソイラテをコップに注ぐとひとつを僕の前に差し出した。ゆらゆらと揺らめく湯気を眺めながら、両手でそのコップを取ると口に付けた。豆乳独特の飲み味と仄かな甘さが堪らなく美味しい。
「なぁイーヴル、何で僕をここへ?」
「こう言う場所とは縁がなさそうだったから。たまには慌ただしさから離れて、のんびり過ごすのも悪くない。俺自身、ここに来るのは久し振り。だってまさか、また北方勤務になるとは思わなかったから…さ」
彼を北方勤務にしたのは僕自身だ。彼の為、と言いつつも僕の我儘だけで彼を北方勤務に持って行った。それはまさに僕のエゴでしかない。
「それに黒曜さんは、こうでもしないときっと付いて来てくれない。何か理由付けをしたかったんだ」
「…理由?」
「そう、理由。黒曜さん、今日は何の日?」
「は?今日?何かあったっけ?」
待って待って。イーヴルが酷い顔をしているぞ?
「…黒曜さん、今日、何月何日?」
「ん?」
言われて携帯のディスプレイを確認する。そこに表示されている日付は10月5日。それが何だと言うのだ。何もない有給を取った平日だ。
「10月5日」
「そうだよね、黒曜さん」
「それが何?」
「…嘘でしょ…」
さすがに僕でもわかる。イーヴルが盛大に呆れている。
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