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ラグの上に黒曜を押し倒し組敷くと、イーヴルは黒曜を見下ろした。いつもはそう変わらない高さの目線で話す同僚だが、今は違う。黒曜はイーヴルの目線の下。
こうやって黒曜を組敷くのは2回目だ。だが今回は前回と違う。イーヴルに退く気はない。目の前で自身に押さえ込まれている好きな人を見て、欲が出ない訳がない。
唇に触れた黒曜の頬は何となく温かい。それは部屋が空調で暖かいのか黒曜本人が温かいのか、判断は出来なかった。
何度か頬に触れた唇は、そっと黒曜の唇に触れる。
もう何年前だろうか。初めてイーヴルが黒曜と顔を合わせた時。あの頃、黒曜とこんな関係になるとは思ってもみなかった。中性的に見えたが男性と紹介をされていたし、とにかく笑わないし愛想もなかった。最初に黒曜がイーヴルに浴びせた言葉は、『…僕の邪魔をしたらレンチで殴るから』だった。
──結局殴らないくせに。
イーヴルが狙撃手で黒曜が後方監視指揮。アイゼンと相性が悪い黒曜は、いつもイーヴルを兼護衛として傍に置き指揮を摂った。イーヴルにしてみれば、黒曜といれば確実に後方高所から狙撃が出来る。お互いの仕事としては丁度良かった。
それもあり、いつしか黒曜の面倒はイーヴルに任せられていった。だからこそ黒曜はイーヴルに気を許した。それまで隊長であるリアンにしか告げていなかった自分の性別を、自らイーヴルに告げた。そこから関係は一気に変わった。
黒曜はイーヴルに対して隠す必要がなくなった安心感からか、随分とイーヴルの前だけで素を晒す様になった。笑顔を少しずつ見せる様になったし、何よりも一緒に飲む様になった。最初はイーヴルと2人きり。そこからリアン、アオイと人慣れしていった。
イーヴルもまた、変わった。それまでと変わらず、黒曜がそこらで寝ていれば抱え上げて仮眠用ベッドへ放り投げる。だが女性と意識すればする程に見えてくるイーヴルへの信頼感と無防備さにどんどん引き込まれていった。
もともとイーヴルはエンジニアとしての黒曜を尊敬している。その尊敬している人が自分に背を預けてくれる。嬉しくない訳がない。それまでイーヴルを、『軍学成績上位』とか『軍属だから』とかの所謂貼られた『箔』しか見てくれない人とは違い、黒曜はイーヴルそのものを見てくれる。
だからこそ。
黒曜から離れたイーヴルの唇が言葉を紡いだ。
「黒曜さんが…好きなんだよ…」
それは初めて口にした、彼の素直な感情だ。
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