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 わたしは大急ぎで会計を済ませ、救急車で運ばれる千里先輩に付き添った。  ご友人の方? と訊かれ、今夜会ったばかりで親しいわけではない、と答える。そうだ。わたしは先輩と親しいわけではないし、先輩のことをほとんど何も知らない。それなのに、先輩のとっておきの秘密だけを知ってしまった。  意識を失ったままの先輩が脈やら何やらのバイタルチェックを受ける間、わたしはストレッチャー脇の座席でその様子を見守り、胸騒ぎに襲われていた。先輩がこのまま向こう側に、リリアン・ヴァージニア・マウントウィーゼルが存在するという、もうひとつの世界に消えてしまうような、そんな気がしていたのだ。  救急搬入口から病院に入り、処置室へ運び込まれる先輩を見送った後も、その予感は消えなかった。
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