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それからたぶん十分ぐらいが経って、わたしは看護師の人から説明を受けた。
判明したのは、何とも呆気ない事実だった。
先輩はどうやら、抗生物質を飲んでいたらしい。パーカーのポケットから、一部が空になった薬の包装シートが出てきたのだ。薬とアルコールの組み合わせはご法度だし、そもそも体調が悪かったから抗生物質まで処方されているわけで、つまりは無茶な飲み方が祟っての昏倒だったに過ぎない。
命に別状はないと聞き、わたしはホッと胸を撫でおろす。
だけど同時に、肩透かしを食らった気分になる。リリアン・ヴァージニア・マウントウィーゼルも、二つの世界をめぐる謎も、なんら関係はなかったのだ。薬のことを忘れていたのか、あるいは薬とアルコールはまずいという認識がなかったのか。いずれにしても、先輩のだらしなさが招いた事態としか言いようがない。
「あの、この後はどうなるんですか」
わたしは看護師の人に尋ねた。失態を晒した先輩としては、わたしと顔を合わせても気まずいだけかもしれない。それに、嘘をついて先輩の秘密に迫ったこちらとしては、どこかで切り上げる必要もある。今がそのタイミングだと思った。先輩の今後は気になるけど、バンド活動を続けている限り、こちらから動向を探る術はいくらでもある。
「もし問題なければ、わたしそろそろ、帰らないとなんですけど……」
「ああ。そういうことでしたら、もう大丈夫ですよ。一応点滴をして、それからご家族の方に家まで送ってもらいますので」
──え?
「家族っていうのは……」
「ご両親と連絡がつきましたので、今こちらに向かってもらっています」
大音量の音楽が急に鳴り止んだような、そんな虚しさに襲われた。ミステリアスで、感傷的で、儚い雰囲気にあふれた音楽がブツリと途切れ、わたしは病院の廊下に独り取り残される。
「ああ……それじゃあ、わたしはこれで」
なんとかそう言ったけど、わたしの頭はひどく混乱していた。
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