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それと、もう一つ大きく変わったことがある。
うちの借金の原因になった、夜逃げしていたお父さんの友人が現れて借金をすべて返済してくれたのだ。
私たちが返した分よりも更に多く、我が家にもお金を返してくれた。
なんと夜逃げ先の海外でビジネスを成功させ、巨額の富を築いたらしい。
何度も頭を下げて詫び続ける友人に、あんなに苦労をかけられたお父さんは文句の一つも言わなくて。
「よく立ち直ったな! 生きてさえいれば、良いこともある!」なんて豪快に笑うもんだから、やっぱりお人よしだなぁと思うのだけれど、それでも私はお父さんの子供で良かったと胸を張って言える。
貧乏暮らしが解消された今となっては、やっぱりあの夜、爽とめぐり逢ったことは運命だったんじゃないかな、なんて思ってしまう。
だってあの頃の苦しさがなければ、爽と私はきっとティファニーの前でぶつかることもなく、もしもぶつかったとしても何も始まることはなかっただろうから。
すべてはきっと繋がっている。
どんなに苦しい日々のなかでも、こんなに特別で奇跡のようなことが起こることだってあるんだ。
爽の首元に顔を埋めながら、サンセットの美しい夕景に目を細める。
香水と汗の交じった爽の香りで胸がいっぱいになって、握った手にきゅっと力を込めた。
「綺麗だね」
「そうだな」
「ねぇ、爽?」
「ん?」
「大好きだよ。爽が隣にいてくれたら、私はもう何もいらない」
爽を見上げると、前を向いたままの彼の顔が真っ赤に染まっていて。
相変わらずのこんな照れ屋なところまで、たまらなく愛おしい。
「俺も。美羽……愛してる」
私たちは沈みゆく夕陽に見守られながらそっと唇を重ねあわせた。
fin.
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