第一章 ティファニーの魔法

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「あの、急いでるんで、教えてもらえないんだったら二万円、置いていきますから」  いくら貧乏人でも、ここで十倍のお金をもらうわけにはいかない。  ため息をついた彼に、私はやっとの思いで答えた。 「……二千円」 「え?」 「二千円です」 「二千円、ですか」  頬が熱い。お金持ちの彼からしたら、こんな安物の靴が壊れたくらいで泣いている意味が分からないんだろう。  私を見下ろす綺麗な顔が、より一層、不思議そうに歪んだ。 「なんで、それくらいで」  彼のぽってりとした唇から予想通りの言葉が出てきて、私のなかでプツンと何かがきれた。  お腹の底から怒りなのか何なのか分からないグチャグチャな衝動が大声になって溢れ出す。 「それくらいでって!!」 「え」  急に声を張り上げた私に彼がたじろいで目を見張った。
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