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まばゆいスポットライトのなか、明るい茶髪をなびかせながら長身の男性が大きく手を広げて力強くターンした。そのまま私の前方で踊る。
ーー爽。
ゆっくりと、勝手に、唇から彼の名前が零れ落ちる。
――本当に、あなたは……アイドル、なんだね。
このボックス席は二階にあって、ステージからはかなりの距離がある。
それでもこんなの、まだ近い方だ。
本当の彼との距離は、こんなもんじゃない。
実際はお城で優雅に暮らしながら皆に焦がれられる王子様と、ひっそりと惨めに暮らすシンデレラほどの……ううん、きっとそれ以上に距離がある。
そのことを今、改めてつきつけられた。
曲が間奏に入る。
メンバーそれぞれが客席に向かって手を振ったり、バーンと指で撃つ真似をしたり投げキスをし始めた。
きっとその動作のリクエストが、観客たちの掲げるうちわに書かれているのだろう。
爽もステージ近くのブロックに視線をさまよわせ、歯を見せて笑いながら観客に手を振った。
その笑顔だって、スポットライトなんかよりよっぽど眩しい。
一瞬も爽から目が離せない。
私の瞳のフレームの中で、爽が目線を上げてこっちを見る。
その瞬間、爽の色素の薄い瞳と視線がぶつかった。
ほんの数秒、爽の表情が固まる。
み、は、ね。
彼の唇が私の名前の三文字を呟いたような気がした。
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