第六章 ステージの上の王子様

14/21
前へ
/245ページ
次へ
 きっと、どうしてこんなところにいるんだと思っているんだろう。  そんなの私が聞きたい。  まさかこんな風に爽のコンサートを観ることになるなんて。  こんな風に改めて住む世界の違いを見せつけられるなんて……。  すぐに気を取り直した様子の爽は、何事もなかったように二番に入った曲を歌い出し、また別の方向へ移動していった。  さすがプロだ。私みたいに、こんなに動揺なんてしない。  住む世界が違う。  私と爽は、こんなにも違う場所に住んでいるんだ。  分かっていたつもりだったのに、それでも。  あんなに近くに感じていた爽が、今はとてつもなく遠く感じる。  私は身体から力が抜けて、へなへなと椅子に座り込んでしまった。  スピーカーから流れてくる爽の歌声。  爽は、こんな風に歌うんだ。  こんな声で。  そんなことすら、私は今日までちゃんと知らなかった。  打ちのめされる。  この距離の遠さに、この私の知らない世界に。  近くにいたはずなのに、こんなに。  こんなに遠い。  胸がぎゅっと掴まれたように痛くなったと気付いた時には、頬を涙が伝っていた。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

367人が本棚に入れています
本棚に追加