第六章 ステージの上の王子様

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 こんなにたくさんの人たちに求められている彼を、こんなに遠い世界に住む彼を、私なんかが好きになっちゃいけない。  恋なんてしちゃいけない。  そう思えば思うほど胸が苦しくなって、もう自分が引き返せないところに来てしまっているのだと気付かされる。  寺西さんが言ったように、一度転がり始めたら止められないものなのかもしれない。  私なんかが爽に恋しちゃいけないのに、好きになったところでどうすることもできないのに。  かないっこないのに。  それでも、もう転がり落ちてしまった。  深い恋の底に落ちて、今、こんなにも苦しい。  すぐに寺西さんが気付いて「どうしたの? 大丈夫?」と訊いてくれるのに、私は「……なんか目が痛くて。ゴミでも入ったんですかね」とベタな言い訳でごまかすことしかできなかった。  その後も爽たちカラストのメンバーはステージをめいっぱい使って歌い踊り、観客たちを沸かせた。  だけど私は楽しむことなんてできずに、ただ胸の痛みに耐えながらステージの上の爽を見つめていた。
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