第六章 ステージの上の王子様

16/21

367人が本棚に入れています
本棚に追加
/245ページ
 コンサートが終演になり、メンバーに挨拶に行くという寺西さんについて楽屋に向かった。  どんな顔をして挨拶をすればいいんだろう。  ちゃんと他人のふりをしながら笑うことができるだろうか。  爽は私を見て、どんな反応をするだろう。  色々な思考がぐるぐると頭の中を渦巻いて、緊張でどうにかなりそうだ。  関係者以外立ち入り禁止と書かれた紙の貼り付けられたドアを抜け、コンサート終演後も大勢のスタッフで慌ただしい廊下を進む。  しばらく歩いた先のドアの前に、以前、爽の部屋で会ったーー確か設楽さんと呼ばれていたマネージャーの姿があった。  寺西さんが慣れた様子で挨拶をする。 「TNCホールディングスの寺西です。お世話になっております」 「お世話になります。本日はご足労いただき、ありがとうございます」  設楽さんが大柄で筋肉質な身体で丁寧に会釈する。  それから私にちらりと一瞥をくれると、何か考えるような素振りを見せた。 「あぁ、ご挨拶が遅れました。アシスタントの灰田です」 「灰田 美羽と申します。よろしくお願い致します」 「設楽です。灰田さんですか……。よろしくお願いします」  こわごわ名乗ったものの、設楽さんはそれ以上なにも言わなかった。  この前、マンションで会ったことを思い出せないのかもしれない。  どことなく腑に落ちない様子を残しながらも、設楽さんはカラフルストリームと紙が貼られたドアをノックして押し開いた。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

367人が本棚に入れています
本棚に追加