第六章 ステージの上の王子様

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 設楽さんにはあの時、お弁当のことだけ説明したけど、納得してもらえたかんじはしなかった。  他の三人も「なになに? あやしくね?」とか「どんな知り合い?」なんて茶々を入れる。  なんともいえない居心地の悪さに、私はただ寺西さんの隣で縮こまって立ち尽くしていた。 「あー、もううっせぇな! ただの友達だよ、友達」  鬱陶しそうに頭をガシガシかきながら爽が答えると、メンバーからは「なんだー、つまんないの」なんて落胆めいた声と「ま、今は色恋沙汰は勘弁だな」と安堵の声が上がる。  寺西さんも「お友達だったんだ?」と私の顔を覗き込んできた。 「は、はい! 友人、です」  ――ただの友達。そう、友達。  苦し紛れに話をあわせながらも、友人という四文字を口に出した途端、胸の奥にまたさっきまでの痛みが戻ってくる。  痛くて、苦しい。  そんな気持ちが顔に出てしまっていたのか、寺西さんが小さく「ふぅん。なるほどね」と呟いた。  それから得心がいったというような表情で爽に視線を移す。  メンバー四人はそれでもまだ爽を囃し立てていたけれど、設楽さんは感情の読み取れない顔でじっとこちらを見据えていた。
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