第七章 触れたい

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第七章 触れたい

 コンサートから戻ると、スマホに佐々岡さんから鬼のように何度も着信が入っていて、寺西さんとのことを電話で報告しなければならなかった。  佐々岡さんを突き動かしているのは寺西さんへの恋心に尽きる。  正直、精神的にくたくただったのだけれど、私の胸の奥にある爽への焦がれるような想いを考えると、佐々岡さんを無下にすることはできなかった。  人を好きになるというのは、恋というのはきっとそれだけ必死なものなのだ。  恋。  痛いくらいに自覚してしまった爽への恋も、気持ちだけはとても必死で。  だけど佐々岡さんのように猛アタックするわけにもいかないし、どうしていいのか分からずにいた。  コンサートでの彼は紛れもなく大勢のファンのもので、前に爽が言っていたように男である前にアイドルなのだと実感せざるを得なかった。  私なんかが独占していいはずもないし、できるわけもない。  そう。そもそもできるわけがないんだ。  だって、爽が私を好きになるはずがない。  どんなに高いタワーマンションに住もうが、ブランドものに囲まれていようが、お弁当を食べて笑う爽を身近に感じてしまうこともあるけれど。  でもやっぱり全然違う。  やっぱり爽は手の届かない世界に住んでいる人なんだ。  どうにもならない。  どうすることもできない。  欲しいと手を伸ばすことすら、してはいけない。  この恋は不毛で、ただ切なく苦しいだけの恋だ。
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