第七章 触れたい

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 爽のことばかり考えて過ごしていた日曜の夜。  ーーそろそろコンサートが終わる頃、かな。  お風呂あがりに布団に寝そべって、スマホの爽とのトーク画面をなんとはなしに眺める。  その時、弟の康太からの着信にスマホが鳴動した。 「もしもし。康太?」  康太が私に電話をしてくるなんて久しぶりだ。  貧乏暮らしで家族みんなが大変だからか、目立った反抗期もなく、中学生なのに新聞配達のバイトをして家計を助けている。我が弟ながら良くできた子。  何か相談ごとだろうか、なんて考えながら電話をとった私の耳に、スピーカーのむこうから康太の押し殺したような泣き声が飛び込んできた。 「……ねぇちゃん」 「康太? どうしたの? 何かあった?」 「……母さんが、母さんが倒れた」 「え?! 倒れたっていつ? 大丈夫なの? 今どこ?」 「さっき救急車で運ばれて長野諏訪総合病院にいる。どうしよう、姉ちゃん……俺、俺」 「と、とにかく落ち着いて」 「ごめん……。とりあえず何か分かったらまた連絡する」  康太のその声を最後に電話は切れた。
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