第七章 触れたい

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 私は音のしなくなったスマホを呆然と眺める。  ――お母さん……!  お母さんが倒れたなんて。大丈夫なのかな……悪い病気だったらどうしよう……。  我が家が借金地獄になってからのお母さんの心労や、働きづめの生活を思う。  身体を壊してもおかしくない暮らし。  ――会いに行きたい。今すぐに。でも……。  心配でいてもたってもいられない。  それなのにどうしてもお金のことが頭をよぎる。  長野までの新幹線代はいくらだろう。  夜行バスの方が安いだろうけど、今の暮らしの自分にはそれすら自由にすることができない。  どうしよう。どうしたら……。  気付くと、私はメッセージアプリで爽に『どうしよう。今、お母さんが倒れたって弟から電話がきたの』と、すがるような思いでメッセージを送信していた。  心配でたまらないのに、こんなに離れた場所でどうすることもできない自分がもどかしくて……。  気付くと身体が小刻みに震えていた。
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