第七章 触れたい

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「爽?!」  思わず驚いて叫んでしまう。  インターホンモニターの四角いモニターのなかに、紛れもなく爽が映っていた。  慌てて玄関に駆け寄り、ドアを開ける。 「爽……どうして?」 「行くぞ」 「え? 行くってどこに?」 「美羽の母ちゃんのとこに決まってんだろ」 「お、お母さんのところって……」 「とりあえず荷物持ってこいよ」  廊下の蛍光灯の灯りに照らされた爽が、じっと真剣な眼差しを向けてくる。  行くってどうやって? どうして爽が? と頭が混乱しているのだけれど、有無を言わせない様子に逆らうこともできず、ハンドバッグを手に取る。 「ねぇ、どういうこと?」 「……いいから来い」  爽が私の腕を掴んだ。  大きくて熱い手のひらの感触に、こんな状況でも鼓動が大きな音をたてる。  慌てて玄関に鍵をかけて、早足の爽に引っ張られるようにしてついていく。  訳が分からないのに、前を向いて歩く彼の背中がとても頼もしくて……。
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