第七章 触れたい

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 ――後悔しても遅い、か……。  爽が私に頷いて見せる。 「ありがとう」  涙がこみ上げてくるのを隠すように、私は急いで車に乗り込んだ。  さっき言われた通りに靴を脱いでシートに横たわる。  革張りのシートは柔らかくて、不安で強張っていた身体を優しく受け止めてくれた。  すぐに爽が運転席にまわり、スマホで調べた住所をカーナビに入れ、車を発進させた。  ルームミラーを見上げると、薄い色付きのサングラスをかけた爽が、前方に視線を向けているのが見える。  金曜日からついさっきまでコンサートを何公演もこなして疲れてるはずなのに。  それなのに、私のために飛んできてくれた。  そのことが、どうしようもなく、たまらなく嬉しい。  冷え切っていた心に、じんわりと温もりが灯る。 「今、高速乗った。この時間なら三時間しないで着く」  後部座席からぼんやりと爽を眺めていると、そんな声が降ってきた。  フロントガラスごしに流れていく東京の灯りと、爽の髪。  爽の肩。  爽の瞳。  いつもの爽の香水のかおり。  鏡のなかで彼と目が合う。
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