第七章 触れたい

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「ごめんね。遠いのに。コンサートで疲れてるでしょ?」 「これくらい平気だよ。俺はそんなやわじゃねぇからな」  鼻で笑うような声がして、ミラーのなかの目が細められる。 「母ちゃん、大丈夫だといいな」 「うん……。本当にごめんね」 「そんな謝んな。これは俺の自己満みてぇなもんだし」 「え?」  よく意味が分からなくて聞き返すと、爽はまた黙って視線を前に戻した。  なんだろう。自己満足って……。 「前に話したろ? 俺の母ちゃんも昔、倒れたんだ」  爽がぽつりぽつりと語りだす。  車の走行音にかき消されそうなほどの静かな声。 「俺が十六の時だったかな。知り合いの推薦で事務所に入ることになって……研修生みてぇなかんじで先輩グループのバックで踊る仕事がちょこちょこあったけど、けっこううちも金なくてさ。母ちゃんが一生懸命働いて生活させてくれてたんだよな」  爽が私にお弁当を届けるように言ったのは、そのお母さんのことがあったからだ。  家族のために働いて病気に気付けなかったお母さんと私を重ねて、それで。
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