第七章 触れたい

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 病院に着いたのは日付が変わった月曜の午前二時だった。  救急搬送用の出入り口そばの駐車場に車が停まる。 「着いたぞ」 「爽、ありがとう」 「あぁ。いってこい」  爽の力強い言葉に送り出されて、私は走る。  康太に電話して聞いた病室に向かうと、ベッドの上で点滴に繋がれて眠るお母さんと、その脇に憔悴しきった様子のお父さんと康太がいた。 「お父さん、康太!」 「美羽……連絡できなくて悪かったな」 「ううん。それよりお母さんは? 大丈夫なの?」 「あぁ。実は風邪をこじらせて、肺炎になってたんだ。高熱が続いてたんだが今日、呼吸困難になって運ばれた」  久しぶりに見るお父さんの顔は青白くて、やつれている。 「今は薬で落ち着いて眠ってるよ。家計を考えるとなかなか病院に来られなかったみたいだ。先生が言うには過労のせいもあるだろうって。でももう命に関わることはないそうだ」 「……良かった」  本当に良かった。  お母さんの酸素マスクをつけた、安らかな寝顔に胸をなでおろす。  また会えて良かった。  生きていてくれて良かった。  早く元気になってほしいと願いを込めて、そっと手を握る。  細くてがさがさに荒れた手。苦労の滲む指。
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