第七章 触れたい

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 二十分後、病院からほど近い親戚の家の離れで、私たちは呆然と立ち尽くしていた。  深夜とはいえ、親戚に会ってしまうと爽の存在がバレてしまうし……と心配していたのだけれど、それは杞憂に終わった。  母屋から数十メートル離れた畑の脇にポツンと設置されたコンテナハウス。  そこは離れというのは名ばかりで、物置小屋のような様相を呈している。  一応、窓にはカーテンが引かれ、エアコンも設置されているけれど……私の想像を超えた暮らしに驚きを隠せない。  お風呂やトイレは母屋に借り、食事は食費を渡すことで親戚家族と一緒にとっているとは聞いていた。  それでもこの衣装ケースや箪笥に康太の勉強机、二枚布団を敷いたらいっぱいの空間に、年頃の康太と両親が雑魚寝しているところを想像すると胸が痛んだ。  タダで住ませてもらえるだけで有り難い。  自分たちの状況を考えると、そう思わなければならない。  だからきっと誰もこの暮らしに文句は言わなかったし、私に弱音を吐くこともなかった。  ーーやっぱり私は何も分かっていなかったんだ。  東京で一人、節約生活をする内に自分だけが苦しんでいるような気持ちになって……家族がこんな暮らしをしていることに気付かなかった。  いや、自分のことでいっぱいいっぱいで知ろうともしていなかったのだ。
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