第七章 触れたい

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 そう問いかけられた一瞬で、私の頭の中に爽と出会った夜のこと、爽が美味しいとお弁当を食べてくれている笑顔、ちょっとした言い合い、今夜、ルームミラーごしに見た彼の瞳が思い起こされた。  ーー爽とのこと、ばかりだ……。  私の幸せが、楽しかったことが、爽でいっぱいだなんて……自分でも信じられない。 「幸せの形は人それぞれだろ。俺も貧乏暮らしだったし反抗期もあったりしたけど、それでも悪いことばっかじゃなかったぜ? 外野に分かんなくたって、いくらでもあんだよ」 「……でも」 「あー、マジで美羽って頑固だよな」 「は、はぁ?!」 「初めて会った時から、でもでもばっか。……ったく。そんなツラすんなら、これからたくさん母ちゃんの話でも聞いてやれよ」  爽は唇の端を上げて、もう一度、私の頭をガシガシ撫でまわした。  ーーなによ、もう。  突き放すような、ぶっきらぼうな仕草で……それなのにものすごく優しいんだから。 「ちょっと、やめてよ」 「うっせー」 「もう!」 「とにかく、俺は近くのホテルに電話してみっから。美羽はここで寝ろよ」  私がその手のひらから逃れ、髪を直している間に、爽はもうスマホをいじり始めた。  確かに今、ここで塞ぎ込んでいても仕方ない。  とにかく爽を早く休ませてあげないと。  まだ動揺のやまない心を落ち着かせるように咳払いをして、私もスマホで近隣のビジネスホテルの検索を始めた。
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