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そう問いかけられた一瞬で、私の頭の中に爽と出会った夜のこと、爽が美味しいとお弁当を食べてくれている笑顔、ちょっとした言い合い、今夜、ルームミラーごしに見た彼の瞳が思い起こされた。
ーー爽とのこと、ばかりだ……。
私の幸せが、楽しかったことが、爽でいっぱいだなんて……自分でも信じられない。
「幸せの形は人それぞれだろ。俺も貧乏暮らしだったし反抗期もあったりしたけど、それでも悪いことばっかじゃなかったぜ? 外野に分かんなくたって、いくらでもあんだよ」
「……でも」
「あー、マジで美羽って頑固だよな」
「は、はぁ?!」
「初めて会った時から、でもでもばっか。……ったく。そんなツラすんなら、これからたくさん母ちゃんの話でも聞いてやれよ」
爽は唇の端を上げて、もう一度、私の頭をガシガシ撫でまわした。
ーーなによ、もう。
突き放すような、ぶっきらぼうな仕草で……それなのにものすごく優しいんだから。
「ちょっと、やめてよ」
「うっせー」
「もう!」
「とにかく、俺は近くのホテルに電話してみっから。美羽はここで寝ろよ」
私がその手のひらから逃れ、髪を直している間に、爽はもうスマホをいじり始めた。
確かに今、ここで塞ぎ込んでいても仕方ない。
とにかく爽を早く休ませてあげないと。
まだ動揺のやまない心を落ち着かせるように咳払いをして、私もスマホで近隣のビジネスホテルの検索を始めた。
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