第七章 触れたい

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 数分後、私たちは同時にため息を吐き出していた。  偶然にも今日、先ほどの病院で大規模な会議のようなものが開かれるらしいことと、昨日近くでイベントがあったこともあり、数少ない近隣のホテルはどこも満室で空いていなかったのだ。  どんなに検索してみても一時間半ほど移動しないと他にホテルや旅館の類はないらしい。  もう朝方に近い時間だ。寝不足で長時間、車を走らせるなんて危ないし、なにより私たちはくたびれていた。  だから思い切って部屋の壁際に畳んであった布団を敷いてみることにした。  二人とも無言で布団を広げ、一枚ずつできるだけ間があくように家具や壁にぎりぎりまで寄せていく。  努力の結果、なんとかぴったりくっつくことなく敷くことはできたけれど……それでも狭い部屋だから手を伸ばせば余裕で触れられる距離だ。  やっぱりここに爽と寝るなんて現実的じゃない……。 「ね、ねぇ、本当にここで寝る?」 「……俺は車で寝てくるか」 「それはダメ! コンサートで疲れてるうえに、ここまで運転してきてくれたんだもん! しかもまた東京まで運転してもらうわけだし……それなら私が車で! あ、爽が嫌じゃなかったらだけど」 「車で一人で寝るなんて、もし何かあったらどうすんだよ!」  う、確かに、それを言われるとちょっと怖い。  外は建物や街灯も少なくて、当たり前だけど人気も全然なかった。  すぐそこの畦道に路駐しているとはいえ、車で一人で寝る勇気はない。 「ごめん、無理かも……」  しばらく二人して黙り込む。  途端に爽への気持ちを改めて意識してしまい、どっと緊張感が湧いてきた。 「よし」  先に口火をきったのは爽だった。
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