第七章 触れたい

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「ここで寝るぞ」 「ほ、ほんと?」 「あぁ。いつまでも悩んでるわけにいかねぇだろ。別になんもしねぇから安心しろ」 「そ、それは分かってるけど……」 「じゃあ、俺はこっち側もらう。美羽はそっちな」  諦めたような、自棄を起こしているような口ぶりでそう言って、爽が左側の布団に寝転んだ。  ――ものすごく緊張するし、なんだか恥ずかしいけど、しょうがない、よね。  爽の方をちらりと見ると、こちらに背中を向けて横たわっている。  私の腕を引いてくれた時、頼もしく見えた細いけど男らしい後ろ姿。 「電気消せよ」 「う、うん」  壁の照明スイッチに触れるだけなのに、動きがどうにもギクシャクしてしまう。  やっとの思いで電気を消すと、そろそろと布団にもぐりこんだ。  どうしよう。心臓の音がすごく、うるさい。  ――でも爽だって何もしないって言ってたんだし。  ただ、一緒に寝るだけだもん。  ただ、こんなに近いだけ。  それだけだから。  私は雑念を振り払って、ゆっくり横になる。  まだ洗剤の香りの残るシーツに沈み込む身体。  ーーちょうど洗い立てのシーツがあってよかった。  爽を家族が寝た後のシーツに寝かせることなんて、できないもの。
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