第七章 触れたい

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 真っ暗になったせいか、爽の呼吸が先ほどよりも大きく聞こえて、彼の気配を近くに感じてしまう。  爽が隣にいる。  眠いのに、身体が疲れているのに、爽の息遣いや気配を気にしてしまう。  目を閉じても、まぶたの裏に爽の笑顔が、爽の色んな表情が浮かんでは消える。  相変わらず、鼓動だって全然、落ち着いてくれない。  そして私は。  自分の中にある、ひとつの気持ちに気が付いてしまった。  こんなの、おかしい。  だって、どうすることもできないって、叶わない恋だって、分かってるのに。  なのに、今、私、ものすごく爽に触れたいと思ってしまっている。  このままずっと爽のそばにいたい。  爽に触れたい。  こんな気持ち、変だ……。ダメだよ。  頭ではそんな風に思うのに。  横になったまま、布団のなかでゆっくりと爽の方を向く。  頬が燃えるように熱くて、指が震える。 「爽」  小さく名前を呟いてみても、もう眠っているようで返事はない。  静寂のなか、爽の規則的な呼吸と私の心臓の音だけが聞こえて。  私は胸のなかで強く、強く願った。  神様、どうか今だけは。  今だけは爽に、触れさせてください。  叶わない恋でもいいから、どうか触れることを許してください。  どうか、爽の温もりを感じさせてください。
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