第七章 触れたい

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 鳥のさえずりが聞こえて、意識がゆっくりと覚醒していく。  まどろみのなか、あれ、私いつの間に寝ちゃったんだっけと考えながら、ゆっくりと目を開けた。  その瞬間、目の前の光景に息が止まりかける。  鼻先が、唇が、触れてしまいそうなほどの至近距離にある爽の寝顔。  皮膚の薄いまぶたを縁どる長いまつげ、すっと通った高い鼻、サラサラの髪。  ――ち、近っ! なにこれ、なにこれ、なにこれ?!  思わず距離をとろうとして、私はそこで初めて爽に抱きしめられていることに気付いた。  私の腰と背中を包む、爽の腕の熱さ。  昨夜、願った以上の現実に頭がパニック状態になる。  ドックンドックンと、心臓が早鐘のように鳴って、息苦しい。 「うーん……」  どうしよう、抜け出すべき? どうしたらいい? なんて考えている内に、爽の唇から吐息が漏れて瞳がゆっくりと開かれた。  ほとんど密着しながら身動き一つとれずにいると、爽と目が合う。  カーテンの隙間から差し込む陽光で薄明るい部屋のなか、その茶色い瞳に私がどアップで映っているのが見えた。 「えっ?!」  爽があげた声に合わせるように開かれたドアから、まばゆい外の明かりが部屋に射し込む。  逆光のなか立ち尽くすシルエットは、間違いなく弟の康太のもので。  次の瞬間には、康太の驚きの声が上がった。 「おはよ、姉ちゃ、って、え、え?!」
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