367人が本棚に入れています
本棚に追加
/245ページ
可笑しそうに大笑いする爽を見て、今度は康太も笑いだし、場の空気がなんとなく緩んでいく。
昨日から未だ残っていた緊張も、お母さんが目を覚ましたと聞いて完璧にほどけた。
私の唇からも勝手に笑みがこぼれる。
どんなに爽やかでも、瞳の奥にあるのは爽自身、いつもの彼と何も変わらない。
弧を描いた二重瞼に、Tシャツから伸びる血管の浮いた腕に、私はたまらない愛しさを感じていた。
さっきはびっくりしたけど、本当は抱き締められていたことが嬉しかった。
たとえそれが爽が眠っていた間の無意識でしたことで、目覚めたとき、あんな風に動揺されたとしても。
全身で爽に包み込まれていたことが、なによりも嬉しかった。
爽にはきっと、こんな気持ちを打ち明けることもないだろうけど。
私の気持ちと爽の気持ちはきっとバラバラで、愛しいと思っているのはきっと私だけなのに、今、何かが通じ合ったように私たちは笑い合った。
その後、私は親戚には挨拶を済ませると、会社にお休みの連絡を入れ、爽の車で病院に向かった。
お母さんの熱はもうすっかり下がったようで、私の来訪に驚いてはいたものの笑顔を見せてくれた。
久しぶりに見た、お母さんの笑顔。
ホッとして泣きそうになったけれど、そんな顔、今のお母さんに見せるべきじゃない。
だからぐっと堪えて、私も笑顔で病室を後にした。
車で待っていてくれた爽に報告すると、まるで自分のことのように喜んでくれた。
また爽のこういう温かいところが好きだなんて思ってしまった私は、胸の高鳴りを悟られないようにそっと後部座席のシートに寝転んだ。
最初のコメントを投稿しよう!