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寺西さんのお気に入りだというイタリアンレストランは六本木駅とオフィスのちょうど中間あたりにあった。
静かにピアノの旋律が流れる店内は昼時だというのに落ち着いた空気が流れている。
ここ何年もまともな外食なんてしていないから、なんだか落ち着ない。
メニューを決めかねていると、「アシスタントを急にお願いしたお詫びに、今日は奢るから」と寺西さんがランチコースを注文してくれた。
お値段、二千五百円。
ランチで二千五百円だなんて、お父さんが借金をかぶる前、お金のあった時だってきっと高いと思っただろう。
運ばれてきた色とりどりの前菜の盛り合わせも海老の風味の濃厚なスープもトマトパスタもティラミスも、どれも私には艶々と輝いて見えた。
「それで、お母さんは大丈夫だった?」
「はい。今日もお父さんから明日には退院できそうだって連絡が来ました。急にお休みをいただいてしまって、本当にすみません」
「気にしなくていいよ。お母さんが無事で良かったね」
寺西さんはそう穏やかな声で言うと、やんわりと微笑んだ。
彼の周りを漂う空気はいつも優しい。
チャラチャラしているようにも見えるのに、寺西さんに穏やかに声をかけられると不思議とこっちまで気持ちが和む。
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