第八章 動き出す心

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「この前、母に無理やり見合いをさせられてね。相手の女性は俺がTNCの社長の息子だから、いずれは会社を継ぐと思っている様子だった。だからいつか独立したいと言ったら、彼女、なんて言ったと思う?」  きっと良い言葉なんかじゃない。  それはいつもと様子の違う寺西さんの表情からよく分かる。  だけど私は何も答えることができなくて、ゆるゆると首を横に振った。 「きっぱり言われたよ。社長の息子じゃないあなたには興味ありませんって」  はははとから笑いをして、食後に運ばれてきていたホットコーヒーを飲み干す寺西さん。 「そんな……」 「家族を大事にできていない俺が、それを理由に価値がないって言われたようなもんだね。ま、きっと俺に言い寄ってくる子たちだってみんな、俺の後ろにはうちの会社や社長の座が見えているんだろ」  どうしてそんなことを平気で寺西さんに言えたんだろう。  寺西さんのことなんて、きっと何も知らないくせに。  私だってまだ知り合って日は浅いけど、だけど。  なんだかその相手の女性への怒りがふつふつとわいてきて、気付いたら言葉が口をついて出ていた。
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