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「ごめん。君にこんな話をするのも変だよな」
「寺西さんは優しいです」
私の言葉に寺西さんが首を傾げる。
「社長の息子とか、会社を継ぐとか継がないとか、そういうの関係ないですよね。寺西さんは私が一人で暗い顔をしていた時、話を聞いてくれて……。寺西さんは社長の息子でも広報部部長でも、女の子食べ放題のチャラ男でもない、寺西さんの言葉で、見ず知らずの私を、ちゃんと励ましてくれたのに」
少なくとも私には寺西さんの言葉で救われた瞬間があった。
そういう彼の人間性を一欠片だって知らないくせに、肩書だけで平気で切り捨てたなんて。
気付くと私は、ナプキンを敷いた膝の上でぎゅっとこぶしを握りしめていた。
「ぷはっ! あはははははは! お、女の子、た、食べ放題のチャラ男って!」
突然、きょとんとした表情で固まっていた寺西さんが吹き出したかと思うと、声をあげて笑い出した。
「え、な、なんですか、急に」
「あー、ごめんごめん」
何がそんなに可笑しいのか切長の目には涙が浮かんでいて、寺西さんは細い指で目尻をぬぐった。
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